最後の第4章は「国家・プラットフォーマー・主要メディアがつくりだす半ポスト真実的状況に対抗するための問題提起」と題され、2節しかないが中身は充実している。
まず、これらの巨大な影響力が作り出す半ポスト真実的状況に対抗するための原理的提言がなされる。それは実際にはさほど難しいことではなく、反する見解にも目を向ける、傍観者の視点を持つ、などの比較的分かりやすい内容である。かなり実践的な提言と言えるだろう。
第2節は「半ポスト真実的状況の出現を避けるためのメディア別の提言」が、インターネット、テレビ、紙媒体の順に挙げられている。それぞれ興味深いが、私にとっては、インターネットの世界でオルタナティブ・プラットフォームが多数紹介されている点が、大いに参考になった。これまで見たこともなく、その存在さえも知らなかったプラットフォーマーが結構たくさんあることを知り、今後の情報収集に役立つと思えたからだ。
この種の多様な小規模メディアの活用と、個人同士の連携が、巨大プラットフォーマーその他による半ポスト真実状況の克服への第一歩になるだろう。本書の「結論に代えて」でも、そのことが語られている。それらの中に、この「アゴラ」も登場することは特記しておきたい。なお、この章までの引用文献番号は379まである。全276頁の書籍としては、異例の多さであるだろう。
現代のメディア危機に挑む本書の意義本書は、現代人が直面している情報・報道界のあり方・問題点を、丹念な情報収集と緻密な分析によって描いた労作である。そして実践的な提言もなされている。「半ポスト真実」の概念は、現代の状況を理解する上で、有用なキーワードになり得ると私は思う。
実は、孫崎享「戦後史の正体」(創元社刊)には次の文言があって、あまりにも我が国の半ポスト真実的状況をピタリと言い当てていることに仰天した。1979年に起きた、ある論文発表に対する当時の反響に関する証言である。