火星の氷の中で生命が生き残るには、表面で有害な紫外線を防ぎつつも、光合成に必要な「光合成有効放射(Photosynthetically Active Radiation:PAR)」が深層まで届く必要があります。

この「光合成有効放射」とは、植物が光合成に利用できる特定の光の波長範囲を指します。

植物は太陽から届く光のうち、約400~700ナノメートルの波長(可視光)を主に使って光合成を行い、糖や酸素を作り出します。

この研究で見えてきたのは、火星の氷に含まれる塵の含有量が、この「生命居住可能領域」の形成に大きく関わっているという事実です。

塵の量が多いほど、光が遮られ、「生命居住可能領域」は氷の浅い部分にしか広がりません。

例えば、1%もの塵を含む氷の場合、PARが届く深さはわずか数ミリメートルで、光合成には不十分な環境です。

しかし、塵が少ない氷(約0.1%以下)になると、「生命居住可能領域」が深さ数センチメートルから数十センチメートルに広がり、条件によっては光合成も可能となります。

また、氷の粒径も「生命居住可能領域」の厚さや深さに影響します。

粒径が大きい粗い氷や氷河の氷は、光がより深く浸透するため、PARが届く範囲が広がります。

さらに、火星上での氷の分布は、緯度や太陽の位置(太陽天頂角)にも左右されますが、実はこれらの影響は氷の「生命居住可能領域」に対してはあまり大きくありません。

太陽の天頂角が増えても、PARの浸透深さの変化はわずか数センチメートル程度です。

総じて、火星における「生命居住可能領域」の形成には、「塵の含有量」や「氷の粒径」が大きな影響を与えます。

塵が少なく、粒径の大きい氷が存在する場所であれば、生命の存続に必要な条件が揃うかもしれませんが、太陽光が多く遮られる塵の多い氷では難しくなるのです。

コンピュータシミュレーションの結果を下図に示します。

下図では、「塵の含有量」、「氷の粒径」、「火星の緯度」、「太陽天頂角」に対する「氷の深さ」で「生命居住可能領域」の各範囲を示しています。