そんな過酷な環境でも、生命が隠れ住む可能性がある場所として注目されているのが「塵を含む氷」です。
この氷は、火星の北緯75度以上にわたって広がり、時には中緯度地域の乾いた地表の下にも存在しています。
数百万年の間、塵が混じった雪や氷が堆積し、今や火星の表面に姿を見せていますが、どのくらいの深さまで太陽光が届くのかは謎のままでした。
地球でも、この深いところに「生命居住可能領域」が存在し、微生物たちはこの領域で有害な紫外線から守られつつも、光合成に必要なエネルギーを得て生きています。
火星では、有害な紫外線が地球より約30%多く届くため、地表の紫外線は非常に強烈ですが、氷の中に潜むことで安全な光の領域を確保できるかもしれないのです。
研究チームは、火星の中緯度地域にある「塵を含む氷」に、「生命居住可能領域」が存在する可能性があることをコンピュータシミュレーションで確認しました。
このシミュレーションにあたっては、火星の氷や雪がどのくらい太陽光を吸収し、どの深さまでエネルギーが届くのかを解明するため、太陽光の屈折率の変動や鉄を含む塵の効果がモデルに組み込まれました。
この鉄分が含まれることで、可視光や紫外線の吸収が強まり、太陽光が氷の中を深く進むのが難しくなる一方、紫外線が弱まり、生命が生き延びられるかもしれない安全な場所を作り出す可能性もあるのです。
火星で生命を探すには、この「生命居住可能領域」が鍵を握っています。
特に、地表近くの露出した「塵を含む氷」は、火星の生命探査において最もアクセスしやすい手がかりになるかもしれません。
生命体が存在する環境条件とは
火星の氷に生命が宿るためには、ただ氷が存在するだけでは足りません。
地表から入ってくる太陽光線が、氷の奥深くまで届き、そこで適切な条件で生物が生きられる環境、いわゆる、「生命居住可能領域」が必要です。
地球ではオゾン層が有害な紫外線をブロックし、氷の中でも安全な光合成が行えますが、火星にはこのバリアがありません。