原岡:そうですね、ほんとに。政治どうこうではなく、若い世代の未来の問題に興味をもってもらいたいです。13年前、私が福島で毎日のように見かけていた近所の小さい子たちや学生だった人たちが、やらなくてもいい検査の対象なんです。あの子たちは福島県の未来そのものじゃないですか。甲状腺がん検査の過剰診断問題は、若い人の人生そのものです。いつがんが見つかるかもしれないという恐ろしさや、がんが見つかったら進学はどうなる、就職、結婚、出産はと。

加藤:それこそ「一言で言えない」よね。100万人に数人の割合で発見される、悪さをしないがんの話としてまとめられないわけですよ。悪さをしないがんで、みんなも持っているかもしれないのに、過剰診断が福島の子たちには悪さをしている。この対談の前に読んでもらった論文のなかに、高野徹さんの『福島の甲状腺がんの過剰診断 ―なぜ発生し,なぜ拡大したか―』があるけど、「小児甲状腺がんと診断された子供を持つ親は子供の健康だけではなくそれ以外の様々な事柄を心配していることを認識すべきである。子供の甲状腺がんを診療していて最も頻回に問われる質問は「この子は将来結婚できるでしょうか。」というものである。」と書かれてる。

原岡:IARCがやってはいけない検査にしている理由そのものです。こういった精神的な負担というか、私はトラウマと言ってもよいと思うのですが、それだけでなくて将来ローンを組むときがんが発見された患者というので難しい問題に直面します。人生の先々で、壁になるんです。いままで言われてきた風評問題は、若い人たちが追い返してやれと頑張っているけど、これとは別ですからね。

加藤:団体信用生命保険問題だね。住宅ローンを銀行で組むなら「団体信用生命保険」に加入できるか、できたとして金利が上乗せされないかなんて、大きな問題ですよ。繰り返し言っておかなければならないのは、一定の割合で甲状腺がんを持っている人がいて、一生悪さをしない場合がほとんどで、私だってそうかもしれないし、原岡さんだって持ったままかもしれない。いま福島県で検査をされている世代が、他の自治体の若い人が心配しなくてよい苦労を抱えてしまって──。