原岡:がんは早期発見、早期治療と言うじゃないですか。でも、若年型の甲状腺がんは成長が止まったまま、何も悪さをしないまま、そのまま寿命や他の病気で死んで行く人が圧倒的に多いものです。という説明で堂々巡りしてしまうというか、耳を傾けてくれる人がぐっと減ってしまうというか、うまくコミュニケーションが取れなくなるんですよ。
加藤:福島県の甲状腺がん検査とは何か、知っている人が少ないのもあるよね。原岡さんはよく知っているだろうけど、対談を読む人のための説明をしておかないといけないくらい知られていない。ほんと毎回、ここから始めなくてはいけなくなる。福島県の甲状腺がん検査は、2011年に18歳以下だった県民つまり当時子供だったり若かった人が対象で、一巡、二巡……と続けてやって行くものです。若い人の甲状腺がんは、福島県に限らず100万人に数人の割合で発見されるもの。もうこれだけで原発事故の影響はないと言える状態。なんだけど、この説明もなぜか浸透していない。
原岡:なんで浸透しないのだろう。甲状腺がん検査については福島の当事者同士で考えてください、強制でないなら検査しなければ済むじゃないですか、とか思われているのかな。処理水放出がストレートに政治的だったのに、医学や学術界のできごとに見えるから関心が低いのかもしれませんね。
若い人の人生に立ちはだかる難問加藤:アカデミアで揉めているのを知っているなら、かなり事情を理解している人ですよ。対立構造が見えないからではないかな。処理水のときは共産党、社民党、れいわ新選組と前面に政治が出てきて、イデオロギーの対立というくくり方ができたし、口汚い表現をするなら「活動家と左翼はすっこんでろ」というのがあった。それがないからね。こういう政治的な対立や政局に翻弄される原発事故と福島への視線が、あるときは追い風にも向かい風にもなってきたけど、甲状腺がん検査では色のつき方がはっきりしていないから興味を持つ人が少ないのかもしれない。