実は、このフェーザー氏とパウス氏は2年以上も前から、「民主主義促進法(Demokratiefördergesetz)」という法案を通そうとしている。

これは、憲法擁護庁(連邦と各州にある)が、ある組織や人物を「極右」、あるいは「極左」と認定すれば、基本的人権、つまり、自由な言論、思想、行動などを制限できるとするもの。それどころか、認定まで行かなくても、疑いがあれば、電話やメール、銀行口座の動きなどを監視できる。しかも、疑いをかけるための具体的な根拠は要らないというとんでもない法律だ。

パウス氏はこれを、「民主主義の敵は、何が言論の自由の範囲内であるかを熟知している」ので、「(彼らが広める主張の中には)違法ではなくても、国家の平安を見出す危険なものがある」とし、それらも取り締まれるようにしたい。つまり、合法の範囲内であっても、“悪い思想”は排除できるようにすべきということで、恐怖政治の思想だ。もちろん、これは大勢の政治家、法律家、識者などから違憲であるとして警告されているが、本人たちは馬耳東風。

例えば7月、フェーザー氏は右寄りの言論誌である『コンパクト』を極右と決めつけ、事務所を早朝に家宅捜索、多くの物品を没収した上、禁止しようとしたが、これには流石に裁判所が待ったをかけた。これは常識で考えれば、内相が辞任してもおかしくないスキャンダルだが、今の政権の特徴は、どんな間違いを犯そうが、絶対に誰も責任を取らないことだ。

ただ、この動きに対して、自民党のベテラン議員、ヴォルフガング・クビキ氏はインタビューで、「社民党の内相自らが、民主主義に対する危険要素になるとは夢にも思わなかった」と語っている。また、実業家、兼作家のマルクス・クラル氏も、「ドイツにあるのは極右による危険ではなく、フェーザー氏らによる民主主義崩壊の危険だ」と弾劾。

それもあり、9月の旧東独の3州での州議会選挙では、政府の左傾、あるいは全体主義化に決然と反対する州民の意志が、選挙結果に現れた。しかし、これについても政府は、旧東独の住民が民主主義を理解できていないとして、自分たちの誤りは認めなかった。反省のない点は、何となく、現在の日本の状況にも似ている気がする。

3党連立政権崩壊後のドイツの行方と懸念