この法律により、当然、SNS運営会社にとって、寄せられる苦情の処理の審査は重荷となり、多くの会社がその任務を外注することになった。そして、それを受注したのが、民間会社やNGOだったのだ。

つまり、現在のドイツでは、権限が明らかでない民間会社やNGOが、苦情の入った投稿を審査し、合法か違法かを即座に決めている。そして、当然のことながら、合法か違法かが曖昧な投稿やビデオは、私たちの知らないまま、念の為、どんどん削除されていく。一度読んだはずの記事がどうしても見つからないということがあるのは、そのせいだ。

つまり、このSNS規制法がすでに問題含みだったというのに、今、そこにEUによって、まさに屋上屋を架すように、さらにTrusted Flaggersの設置が義務付けられたわけである。

Trusted Flaggers第1号「REspect!」の中立性懸念

ドイツでは、オンライン上の情報管理は連邦ネットワーク庁の管轄だ。ネットワーク庁は郵政省から派生した庁で、本来の仕事は送電線や通信インフラの整備、運営、および管理だったが、なぜか今ではネットの検閲係のような任務を受け持っている。Trusted Flaggersの認定も、今後、同庁が担当することになるが、10月1日、その第1号として、「REspect!」という組織が認定された。

ただ、ここで問題とされたのは、「REspect!」は法的には私立の財団でありながら、資金の多くが家庭省から出ていること。

緑の党リサ・パウス氏Wikipediaより

しかも、この家庭省というのが曲者で、大臣のリサ・パウス氏(緑の党)が、ほとんど極左と言える極端な思想の持ち主で、彼女にとっての言論の自由の敵は、もっぱら右派なのだ。そこで今、このままでは情報の中立な管理が脅かされると危惧する声が高くなっている。

さらにいうなら、これを統括するネットワーク庁のクラウス・ミュラー長官も元・緑の党の政治家。ドイツはデジタル化が遅れており、それが投資が滞っている大きな要因となっているのに、肝心の長官はデジタルインフラの整備よりも、言論統制の任務の方に夢中だ。