通常は、体内の酸素や二酸化炭素が一定レベルにまで変化すると、すぐに警告信号が送られ、強制的に呼吸をしてしまいます。

しかし過酷な訓練を積んだダイバーは、一般人よりもはるかに酸素が少なく、二酸化炭素が多い状態でも、信号を無視して呼吸をしないでいられます。

逆に、意識を失うまで息を止め続けることも可能なため、ダイバーたちは本当に危険なレベルを察知し、意識を失う前に呼吸できるうよう訓練しなければいけません。

一方、訓練によって「例外」となった人々とは別に、実験で人間の安全システムを停止させ、強制的に息止め時間を伸ばした事例もあります。

例えば、ベイン氏による2015年の研究では、ドーパミンを使って化学受容器の働きを抑制しました。

ベイン氏は、「普通の人が息を止めている時にこの処置を行えば、息止め時間を伸ばすことできます」と語っています。

「ドーパミンを使って安全システムを無効化する」なんて、なんとも無茶な方法ですが、このように強制的な息止め時間の延長も可能だと分かりますね。

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麻酔薬で「息をするよう求める」信号を切断 / Credit:Canva,ナゾロジー編集

また、1970年に行われたロンドンにおける古い研究では、1つ目に挙げた安全システムを無効化しています。

具体的には、息をするよう働きかける「大脳皮質→延髄→横隔膜」の経路内にて、横隔膜に信号を伝える横隔膜神経に麻酔薬を注入。信号を遮断しました。

これにより、被験者は息を止められる時間が2倍になりました。

ただし、このような麻酔薬を使った処置を行っても、被験者は気絶するまで息を止めることができなかったそうです。

この結果は、息を止めることに関していかに訓練が重要かを示すものとなっています。

これが何十年も前に行われた古い研究とはいえ、かなり恐ろしい実験であることは言うまでもありません。

現代であれば、(当時もそうだったかもしれませんが)多くの人に非難されたことでしょう。