そのような「検察の権限行使の限界」に関して、行政権の行使の主体である内閣との唯一の接点として重要な役割を果たすべきなのが法務大臣だ。しかし、歴代の法務大臣のほとんどは、捜査権限を有する検察に対して物を言うことに腰が引けていたため、本来の職責を果たして来なかった。
今、検察は、畝本直美検事総長の袴田事件再審判決に対する「総長談話」が、無罪が確定した袴田氏に対する名誉棄損だと批判されている問題、プレサンスコーポレーション事件での大阪地検特捜部検察官の恫喝暴言による取調べの特別公務員暴行陵虐事件で大阪高裁で付審判開始決定が出されたこと、大阪地検北川健太郎元検事正の性的暴行事件など、多くの極めて深刻な問題に直面し、組織自体が危機的状況にある。
このような状況において、検察に対する一般的・個別的指揮権を有する法務大臣の職責は極めて重大だ。
石破首相は、特別国会に首班に指名されると、衆院選で落選し、辞任が不可避となった牧原秀樹氏の後任の法務大臣を任命することになる。その人選を、本稿で述べてきたことを踏まえて適切に行うことは、少数与党への転落で厳しい政権運営に直面している石破首相にとって、最重要課題であることは間違いない。