本来、上記の微妙な問題はあるものの、法務大臣にとって、検察庁法14条に基づく検察への対応は、最も重要な職責の一つであるはずだが、過去の歴代の大半において法務大臣は政治家・国会議員であり、就任会見の時点から「指揮権は行使しない」と確約し、実際に、検察の問題を「聖域」のように扱い、一切関わりを持たないかのような態度に終始してきた。
法務大臣が、個別の事件、とりわけ政治家に関連する事件について個別の事件の捜査処分に介入すること、それが、大臣自身が所属する政党や派閥を利する方向である場合は、重大な政治責任を負うことになる。造船疑獄における犬養毅法務大臣の指揮権発動が、吉田茂内閣の総辞職につながったのが典型例である。
しかし、今回の「裏金問題」についてみると、検察の捜査処理の方向性が、事案の実態にも法律の趣旨にも沿わないものとなり、所得税の課税も含めて、国民の認識と大きな乖離が生じかねない状況だったのである。
そうした中で、検察が適切な捜査処理を行える環境を整えるための法務省刑事局のサポート等を積極的に行うよう指示すること、国民が重大な関心を持つ政治資金規正法違反事件の捜査処分について、個別事件についての公開禁止に反しない範囲で、法解釈や捜査処理の方針等について、国民に納得できるよう説明を行うよう「一般的指揮権」に基づいて検察当局に指示することは、法務大臣として極めて正当な対応のはずだ。
それにより、「裏金事件」の刑事事件としての展開も、政治的影響も、大きく異なるものになっていたはずだ。
法務大臣が果たすべきだった重要な役割昨年12月19日、東京地検特捜部が、「政治資金パーティー裏金事件」で政治資金規正法違反の疑いで強制捜査に乗り出し、安倍派と二階派の事務所を捜索した時点で、二階派に所属する小泉龍司法務大臣が
「検事総長への捜査の指揮権を持つことから、今後の捜査に誤解を生じさせたくない」