それにより、刑事処罰、納税について国民の認識との間に著しい乖離を生じさせただけでなく、「派閥政治資金パーティー裏金問題」の事実解明も、ほとんど行われなかった。それが「正体不明のブラックホール」となって、衆院選で自民党を直撃し、自公両党は過半数を大きく割り込み、日本の政治は大混乱に陥ることになった。

「裏金事件」の捜査処理の誤りと法務・検察組織の根本的な問題

「政治資金パーティーをめぐる裏金問題」は、戦後の日本政治において権力の中心を占めてきた自民党の派閥の中で長年にわたって慣行的に続いてきた、政治資金の不透明なやり取りを象徴する「構造的問題」であり、その捜査・処分が、日本の政治と社会に甚大な影響を与えることは十分に予想された。

一方で、適用する「政治資金規正法」は、政治腐敗、「政治とカネ」問題への批判を受け、議員立法による改正で政治的妥協を重ねてきた歴史があり、その規制にも、罰則にも、多くの欠陥・抜け穴がある。そのような法律を用いて、また、適切な課税をも視野に入れて、適切に罰則適用し、実態に即した解決を導くことは、決して容易なことではなかった。

その検察を所管する法務省刑事局は、政治資金規正法改正の都度、罰則審査に関与しており、法律や罰則の解釈について豊富な知識・経験の蓄積があるのだから、それらを十分に活用し、法解釈面で検察当局をサポートすることが必要だった。

そして、罰則適用ができない理由が、法律の不備、欠陥によるものであれば、それを指摘して、法改正の必要性の認識に結び付けることも必要だった。

前記のとおり、政治家個人に裏金が供与された場合に、帰属先が特定できないために処罰できない「政治資金規正法の大穴」の問題の根本には、政策活動費等の政治家個人の不透明な政治資金のやり取りが政治資金規正法上合法とされてきたことがあるという点も、今回の裏金問題の背景として明らかにすべきだった。