しかし、「政治資金パーティーの裏金の実態」を知る自民党関係者にとって、その問題で東京地検特捜部の取調べが行われたこと自体が脅威だった。動揺した自民党側の反応が、一部で報道され(私が知る限りでは、最初の報道は【選択】2023年11月号である)、それがきっかけとなって、「自民党派閥政治資金パーティーをめぐる裏金事件」として、マスコミで大きく報道されるようになった。
それを受けて、検察としても、「裏金の実態全体の解明」に乗り出さざるを得なくなった。多数の派閥所属議員の取調べのため、全国の地検から相当数の応援検事を動員して大規模捜査を行うことになったが、特捜部側には、もともと「やらされ感」があり、積極的に捜査に取り組もうとした事件ではなかったはずだ。
そこで、特捜部は、従来の政治資金規正法違反のパターンにあてはめ、今年1月の通常国会開会前に手っ取り早く捜査処理を終えようとした。
しかし、この問題は、「自民党の政治資金の不透明性」という構造問題に起因するもので、それまでの政治資金規正法違反事件のような単発的な事件とは性格が大きく異なる問題だった。
政治資金規正法の罰則の適用と捜査の方向性について、早い段階から、事案の性格や罰則適用上の問題点を踏まえた慎重な検討を行うことが必要だった。特定の政治家をターゲットとして、「巨悪との対決」のイメージで行われる「政界捜査」とは全く異なるものであった。
多くの国会議員に関する、政治的な影響も極めて大きい問題であるからこそ、事案の実態に即し、違法な寄付の処理や税務問題なども含めて、常識にかなった、世の中の納得が得られる処分とすることが必要だったといえる。
ところが、東京地検特捜部は、従来の「政界捜査」としての政治資金規正法違反事件と同様に、「政治資金収支報告書の不記載・虚偽記入罪」の適用を前提に捜査処分を行った。それを前提に、議員側に所得税が課税されない方向の政治資金収支報告書の訂正を行わせた。派閥側と個別の議員に収支報告書を訂正させて、何とか事件処理と平仄を合わせることに汲々とし、肝心な事件そのものについての事実解明はほとんど行えなかったというのが実際のところであろう。