政治家個人宛の寄附の禁止の罰則が適用され、処罰することができた場合は、罰金でも公民権停止に追い込むことになることに加え、違法寄附は全額没収、又は追徴となっていた。
ところが、検察捜査の結果、実際に処罰された議員は略式命令を受けた谷川元衆院議員だけ、しかも、同議員は4000万円を超える寄附を受けていたのに、それを没収・追徴されることもなく、所得税の納税も全く行っていない。
他の議員についても、原則として議員個人の課税の対象外となり、議員が、政治資金を私的用途に費消した事実がない限り所得税が課税されない。まさに、政治家個人宛の違法寄附の方向で捜査処理した場合とは「真逆の結果」なのである。
検察が捜査処分の方向性を誤った原因今回の「派閥政治資金パーティー裏金問題」の捜査処理の方向性が誤っていたことは明らかだ。検察は、どうしてこのような間違いを犯してしまったのか。
一般的には、政治と検察との緊張関係は、ロッキード事件、リクルート事件のように、特定の政治家をターゲットとする検察の大規模な「政界捜査」が行われ、それによって、政治家の不正・腐敗が明らかになり、国民から批判されるというパターンである。
しかし、今回の裏金問題は、そのような従来の検察の「政界捜査」の構図とは大きく異なった。発端は、日本共産党の『赤旗』日曜版の記事と上脇博之神戸学院大学教授の東京地検への告発だった。
その告発事件の捜査の過程で、派閥政治資金パーティーをめぐって、ノルマを超えた売上が「収支報告書に記載不要の金」として派閥側から所属議員側に「還付金」ないし「留保金」として供与され、その金額が、清和政策研究会(安倍派)では5年間で総額5億円以上に上っていたという、大規模な「裏金問題」が明らかになり、それが、マスコミによって大々的に報じられていった。
特捜部などの検察官捜査において、告発事件というのは基本的には積極的に取り組む案件ではない。しかも、本件の発端は、日本共産党の機関紙の報道である。告発を受理した以上、所要の捜査として派閥関係者の取調べが行われたのであろうが、この時点で、この事件を「大規模特捜案件」とする意図はなかったものと思われる。