そして2022年11月に始動した、対話型AI「ChatGPT」。誤った回答を自信ありげに答えたり、脱獄の技を答えたり、政治的に微妙な話題にばっさり回答を出したりと、いろいろ不安定さを抱えながらもバージョンアップとともに信頼性が向上していった。
今年(2024年)に入ってある物理数学者が「自分が教科書を書かせてもらえるのは、もはや今年いっぱいだ」とツイッターで自嘲していたのが印象的だった。教育はもともとどうしても教師>生徒の権力構造をはらむし、それがあってこそ回るシステムであった。しかし生成AIを使うと、まるでサポートセンターの係員のようにていねいに、腰を低くして、「ここがわからない」と問いを畳みかけても、疲れず腐らず答えてくれる。
もはや誰もが情報を、そして何より学習機会を、等しく与えられる世界となったのだ。「エントロピーは全体で必ず増大する」という物理学の法則がある。AIの進化は、この法則に拠る。
比喩的にも数学的にも、だ。
電子頭脳の雄・フォン=ノイマンも驚嘆「エントロピー」については、ほとんどの方は「名前くらいは聞いたことがある」か「水に粉薬を落とすと、四方に散っていくっていうあれでしょ?」くらいの理解であろう。
別にそれでいい。なにしろ習うのは大学の理系、それも工学や物理学のコースだ。エントロピーは、物理学と情報理論をつなぐ、虹の橋である。
この「エントロピー」というメーターを、「エネルギー」のメーターとペアで使うと、物理現実と仮想現実の両方を、自由に行き来できる。
ヒントンが「AIのゴッドファーザー」として前より称えられてきたのも、1980年代よりこの二つのメーターをひとつの仮想マシン(いわゆる「ボルツマンマシン」)に落とし込むことで、人工神経ネットワークの研究を粘り強く推し進め、現代AIへの道を切り開いてみせたからであった。
その一方で、昨年(2023年)3月には米CBSニュース記者によるインタビューのなかで、この道の商業性拡大と発展に伴う危険性について、いろいろ懸念を語っている。