だからセンモンカが席巻する、日本のメディアで語られてきたのは「ウクラ・イーナ戦争」で、この国ではウクライナ戦争は起こらなかった。もし起きていたなら、仮にも大学の教員が鍵アカウントに隠れてこそこそと、上記のゲームをプレイする不謹慎が、放置されることはありえまい。

ウクライナ戦争とは(おそらく)異なり、世界にとって「望ましい」形で湾岸戦争が終わった後でも、そうしてバーチャルに殺戮を消費した社会の軽薄さを、ボードリヤールはこう皮肉った。30年前、ポスト冷戦が明るかった時期に鳴らされた警鐘に、いま私たちは耳を傾けるときである。

現実的なドラマ、現実的な戦争、そんなものをわれわれはもはや好まないし、必要としない。われわれに必要なのは、にせものの増殖と暴力の幻覚がもたらす催淫的な味わいである。……この享受が意味しているのは、麻薬の場合同様、われわれの無関心と無責任、つまりわれわれの真の自由を享受することだからだ。

『湾岸戦争は起こらなかった』122頁

編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2024年11月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。