ロシアや中国に代表される、ユーラシア的な専制権力の下でそうなってしまうのは、しかたないのかもしれない。だって、逆らったら殺されるんだから。ぼく自身も、さすがにそこは自信がない。
しかしタテマエとしては「自由民主主義」とか言いながら、相互監視に基づく下からの圧力で、ボトムアップに思考や言論を抑制してしまうのは、さすがにみっともなくはないか。それこそニーチェの哲学で言えば、もはや人間というより「畜群」に等しくはないか。
歴史修正主義と批判されたように、西尾さんの日本史叙述には問題が多く、後年になるほど陰謀論の色彩も強まった。ただまぁ、太ったブタよりは痩せたソクラテスであるべきなように、実証を自称する歴史学者よりも自由な思考を鼓舞する哲学者の方が、人文学のあり方として遥かに正しい。
とはいえ元・歴史学者としては、手放しでその軌跡を礼賛とも行かないのが苦しいとこなんだけど、とにかく長いあいだお疲れさまでした。戦後昭和に福田恆存や三島由紀夫から直接バトンを渡された保守思想家が、令和のいまというタイミングで亡くなったことは、叙述する識者が右か左かを問わず、必ず日本の歴史に残ると思います。
(ヘッダー写真は、辻田真佐憲さんによる晩年の優れたインタビュー記事より。2019年1月掲載)
編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2024年11月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。