ウクライナが行った措置であれば、ロシアが行った具体的な行為の違法性を一つ一つ確定させながら、それらに対する対抗措置であるという説明が成り立つだろう。将来的には、G7側が行ったのは、ロシアの違法行為に対するウクライナの対抗措置の代行執行だった、という説明もありうるかもしれない。だがその場合には、ウクライナ政府が、自国内のロシア資産のみならず、他国にあるロシア資産にまで、強制執行としての対抗措置を実施する要請が出せるのか、という疑問は残る。

なお、「国家責任条文草案」には、国家も違法行為によって損害賠償に応じる義務があると規定されている。さらには「被害国以外の国家」が、加害国の責任を追求する資格があることも定めているが、「(a)違反された義務が、その国家を含む国家集団に対して義務を負わせ、且つ、集団の共同利益保護のために創設された場合、又は(b)違反された義務が、国際社会全体に対すて義務を負わせている場合」である(第48条)。これに該当するかどうかは、前例がないので、相当な幅の解釈論の余地がある。

また、仮に該当するとみなした場合であっても、「(a)・・・国際義務違反の停止、及び、再発防止の確証及び保証、及び、(b)・・・違反された義務の被害国又は受益者の利益の賠償義務の履行」しか許容されない。

今回の事例は、厳密に言えば、第48条の手続き的要件を満たしていないと思われる。G7諸国が、あえて積極的に「国家責任条文草案」を参照しようとしないのは、そのためだろう。

したがって国家責任法を参照したとしても、直接被害を受けているわけではない第三国が他国の資産を事実上の強制執行措置として接収することまでできる、と考えるのは、かなり疑問の残るところである。

なお「国家責任法」を表現する「国家責任条文草案」は、正確に言えば条約化されているわけではない。国連総会でその内容の妥当性について総意が表明されたにすぎないテキストである。一定の法的効果を持つとはみなされているのは確かである。しかしその内容は、一般論にとどまっているところが多々ある。