②は「上司の管理職としての力量は?」という問いに答えるための知識経験がないため、結局は好き嫌いという別の尺度による評価コメントが繰り広げられることになる。
360度評価を管理職評価のメインに据えている場合、査定にも影響することとなり、管理者は部下に好かれることも自身に求められる成果として考えなくてはならなくなる。
この場合、本来組織パフォーマンスをあげることで評価されるべき管理者は、ある種相反する目標=部下に好かれること、を念頭に置かなくてはならなくなり、真逆のベクトルに向かって同時に走らなくてはならなくなる。
例えば部長が課長に評価されている場合、課長のハラスメントを部長は容認してしまうかもしれない。
③360度評価が常態化すると対象の管理者を管理、育成する責任を負っているはずのさらに上の上司が責任を負っていない錯覚を起こす。
まとめると、やはり組織内の「評価者(上司)は常に一人」の原則を貫かなくては上述した不具合を回避することは難しい。
どうしても導入する場合には、そうしたリスクをしっかり把握することと、高度な運用スキルをもつことが組織全体に求められることになる。部下や左右同位置からの評価を「事実」と「見解」に分けて整理し、「事実」のみにフォーカスして管理者として求められる水準とのギャップを気づかせていく必要がある。
そもそも”忖度してしまう”状況下で、仮に無記名での360度評価だとして本音を記載するだろうか、という根本的な問いもある。
また、正直に書いたとして、指摘された本人が不足を自認し、改善に至るかが問題なのであって制度上モノを言えるようにすることで完結ではない。
まとめると、法律面、制度面から不祥事に対処してきたもののなくなっていない。つまり、これらハード面の整備だけでは階層組織の弱点を克服できない。ただし、新しいテクノロジーの応用などにより情報流通不全を補完していくことは積極的に検討すべきである。