(同上書、P.266)
しかし、指数46台は何度もあった。たとえば2023年3月 46.3、5月 46.9、6月46.0、7月 46.4、など目安となる50以下は頻発している。
確かに、2024年6月から7月の、48.5 → 46.8 の下げは比較的大きいが、他の国の株価暴落を説明する程ではないだろう。月次統計というのは一定期間の傾向をみてこそ意味があるものだ。これは、雇用統計も同様だ。
翁氏は8月2日の発表値11万4000人に注目したが、翌月では14万人増と月毎に変動がある。だから、これらの要因でアメリカの景気後退を説明することはできないし、まして日本の史上最大の暴落を説明することはできない。
翁氏の説明では、さらに疑問が拡大する。仮にアメリカの経済指標が原因だったとしたら、本家のアメリカより日本の株価の下げが大きかったことをどう説明するのか。翁氏もこのことは気になり、クルーグマンの「株の下落は不可解」というコメントを持ち出す。なぜ、ここでクルーグマンか?不可解である。
混乱エピローグの冒頭に株価を導く式が示されている。これはどのテキストにもあるおなじみのものだが、そこにr(国債金利 + リスクプレミアム)が入っており、ここから「金利上昇のニュースは株価を下げる」(同上書、P.266)という命題が示されている。逆は逆だが現実に起こったことは、アメリカの利下げ(予想の2倍)で株価は上がらず逆に下がったのだ。
金利はあらゆる経済現象に関係する指標である。金利は各国ごとに成立するのだが、世界市場ではアメリカの金利が中心性を持つ。ドルが基軸通貨だからだ。
この傾向は日米関係でみると特に目立つのであるが、近年では追加の理由がある。日本の金利がゼロに近づいて動きがないから指標にならない。株式市場は量的に巨大だが、自らの動きを律する要因が内部にないから外部に求めざるをえない。内部にあるのは個々の企業の利潤の状況(EPSその他)だが、それは集計されてもミクロの集合体であり、マクロ指標ではない。