表現としては「本来財務省に納付するはずだった米国債からの金利収入が入ってこないのでまだ未納になっているだけ」というかたちになっていますが、ふつうの金融機関として見れば1140億ドルの当期損失です。

中央銀行はどんなに自己資本の欠損が大きくなっても、帳尻合わせをして通常のマネーサプライを維持することはできますが、バンカメ級の巨大銀行がにっちもさっちもいかないほどの巨額損失を抱えているという事態への対応策はきわめて限定されます。

その対応策の大部分は、本来そこまで増やしてはいけないはずのマネーサプライを増やしてインフレを加速するという方向に舵を切ることでしょう。

毎年インフレを続けていけば、名目のまま維持されている自己資本の欠損分や保有証券類の含み損も取るに足りないほどの実質負担に圧縮できるという手です。

インフレ加速は非現実的

しかし、その手もあまり大っぴらには使えません。インフレ政策にはつきもののギャロッピングインフレやハイパーインフレを防げるのかという不安もつきまといます。

でもそれ以前に、金融業界やハイテク大手に国富を吸い取られっぱなしのアメリカでは中間層以下が経済的に疲弊していて、比較的マイルドなインフレでも耐えられない世帯が増えているのです。

現在、通常の消費者物価指数ベースのインフレ率は、2024年9月で前年同月比2.4%と、戦後アメリカ経済としては非常に低水準で済んでいます。しかし、中長期的にインフレが加速する条件は揃っています。次の2段組グラフがその証拠です。

上段のグラフ中にも書きこみましたが、スーパーコアインフレ率とは、消費者物価の中から、工業製品とエネルギー資源の価格を除外して、さらにサービスの中でも住居費は除外した物価上昇率のことです。

サービス価格は工業製品ほど商品(コモディティ)価格の上下に左右されないので、一旦上昇するとなかなか下落しないという特徴があります。スーパーコアはそのサービス価格の中でもとくに人件費に直結する物価の集合体で、人件費同様一旦上昇するとなかなか下落しません。