賃金もほとんど上がらないけれども物価もほぼ横ばいという状態と、物価は年率2%以上上がりつづけるけれども賃金は物価より低い上昇率でしか上がらない状態を比べれば、わずかでも賃金が上がりながら物価は安定している状態のほうがいいに決まっています。

日本国民には自己評価が低すぎる傾向があって、ちょっと深刻な問題に突き当たると欧米諸国のほうが自分たちよりうまくその問題を処理しているに違いないと思いこんで、欧米諸国の最悪の問題点をわざわざマネしてしまうことがあります。

1990年代半ば以降の長期低迷も、じつは欧米、とくにアメリカ型の「富者をますます豊かに、貧者をますます貧しくする」経済政策を持ちこんで、自分で自分の首を絞めた感が強いのです。

具体的には、次のグラフに描かれた日本、アメリカ、イギリス、ユーロ圏の全要素生産性推移をご覧ください。

全要素生産性とは、投入する労働力と資本を同一に保っていても時代が進むにつれて生産高が増えることが多いのですが、その増加分を科学技術の発展や社会インフラの充実などの労働力と資本以外の要素が改善した結果と見なして計量化した数値のことです。

上のグラフは、この増加分が年率どのぐらいの比率で伸びているかを比較したグラフになっています。

ご覧のとおり、アメリカは第二次世界大戦に参戦した頃にもうピークを迎えてしまいました。その後は2000~02年のハイテクバブル期にちょっと盛り返しただけで、全体としてだらだら下げつづけています。

第二次世界大戦直後に贈収賄が合法化されてから、巨大企業になるほど地道な経営改善努力より政治家に自社に都合のいい法律や制度をつくらせて楽をして儲ける姿勢が浸透してしまったから、これほど惨めな姿をさらしているのでしょう。

イギリスは第二次世界大戦直後でさえ、ほとんど全要素生産性が改善しませんでした。ほぼ壊滅状態に近かった生産設備の再建からくるプラスより世界各地に持っていた植民地の大部分が独立したことによるマイナスのほうが大きかったのかもしれません。