そして、政府・日銀は0±1%で安定していた物価を押し上げるために、マネーサプライM2をどんどん拡大するとともに、あらゆるモノやサービスを輸入する際に支払う円が多くなるように執拗に円売り介入を続けたわけです。

しかし、インフレとはカネを借りている人にとって有利で貸している人に不利な金融環境です。借りたカネを返すときにはそのカネの価値がインフレによってどんなに目減りしていても借りたときと同じ額を返せばいいので、インフレが進んだ分だけ元利返済負担を目減りさせることができるからです。

だからインフレは、自己資本より多額のカネを借りることのできる政府や大企業や大富豪には有利で、全体として預貯金(銀行に貸しているカネです)のほうが借り入れより大きい庶民には不利な金融環境なのです。

賢明な日本の大衆は、政府・日銀によるじゃぶじゃぶの金融緩和の中でも、インフレという貧しい人々から金持ちへの所得移転を許さなかったのです。そのへんの事情は次の2段組グラフに明瞭に表われています。

上段でご覧いただけるように日本政府・日銀はとんでもない量のマネーサプライを金融市場にばら撒きました。

ですが、日本国民は下段に出ているとおり、貨幣の流通速度(一定期間、ふつう1年間、のうちに何度市場に出回っているカネの持ち主が変わるか)を抑制することによって、みごとにインフレの脅威を防いできたのです。

ただ、貨幣の流通速度を押し下げることには、もちろん経済活動一般を抑制するというマイナスもあり、円安によって金属資源・エネルギー資源・農林水産物など輸入品の価格が上がったことと相まって、GDP成長率が低下したのも事実です。

「円安やインフレ率の上昇によって経済活性化を図る」と主張してきたリフレ派経済学者たちは、この貨幣の流通速度低下による低インフレこそ成長率低下の主犯であって、もっとインフレ率を高くすれば経済は活性化しGDP成長率も高まると言いつづけてきました。

輸出企業の増益は円安のお陰か?