もし円安だと日本製品のシェアが増えてアメリカ企業の業績が悪化し、円高だと日本製品より国産品を買うので企業社会が潤うのであれば、円高で失業率が上がるわけがありません。

日本からアメリカに輸出している製品のほとんどがアメリカ国内に代替品はなく、日本製品が安く買える円安になればアメリカ経済全体が潤い、日本製品を高く買わなければならない円高になればアメリカ経済全体が苦しむのです。

そして下段を見れば、失業率の下降から上昇への転換点でアメリカを代表するS&P500株価指数はほぼ毎回急落しています。だからこそアメリカは円安を大歓迎するのです。

共和党の大統領候補トランプは「当選したら円高誘導をする」と言って、円高になればアメリカ製造業が復活するようなことを夢見ていますが、この発言だけでも不動産売買はプロでも経済に関しては無知蒙昧だとわかります。

起業率が急低下し、国民経済全体の貯蓄率がマイナスに

贈収賄の垢にまみれた巨大寡占企業は堅実な成長を放棄してしまったとしても、新しいビジネスモデルを引っ提げた新興企業が次々に登場することが、第二次世界大戦後のアメリカ経済ではほぼ唯一のとりえでした。

ところがこの旺盛な起業家精神も、最近ではかなり萎縮しているフシがうかがえます。しかも、2000年代までは漸減傾向だったものが2010年代に入って起業社数より廃業社数のほうが多い年さえ見られるほど起業社数が激減しているのです。

今さらワイロ政治にどっぷり浸ったアメリカの巨大寡占企業がおこないを改めることなど考えられませんから、こうした悪習に染まっていない新興企業が伸びてくることがアメリカ経済にとって最後の希望というべきでしょう。でも、その希望の灯が消えかけているのです。

そしてアメリカは、今や国内全部門の貯蓄率がマイナスに転換しています。民間企業・家計・政府全体でその年のうちに生産したあらゆる製品とサービスは遣いきってしまい、過去の蓄積を取り崩している状態です。次の2枚組中で上段のグラフです。