政権から見て都市部の中流階級の賃金低迷や雇用難は「ただの甘え」に見えたに違いないし、富裕層の収入減はむしろ好ましいと考えられてきた可能性がある。それがパンデミック中から今に至るまで個人消費をターゲットにした経済対策を頑なに拒んできた背景であると思われるが、パンデミック後に都市部の低収入層の可処分所得は最も落ち込んでおり、それが治安悪化に繋がってはじめて指導部の視界に入ったものと考えれる。

金融機関への公的資金注入

とはいえ、本ブログなどには利下げなどの金融緩和を行ったところで、銀行の貸出しマージンが更に圧迫されるし、既存住宅ローンの借り手が期限前償還を加速させるだけなので大してポジティブにならないという先入観があった。

しかし上のリストの末尾に記されており、多くの市場参加者が見落としたであろう2008年以来となる銀行への公的資金注入(資本増強)には確実に意義があった。公的資金注入の原資は特別国債発行で賄われ、その規模は1兆元に達すると言われたが、規模は伝聞であり、確実になったのは公的資金注入の方向性だけである。

利下げ、既存住宅ローンの金利引下げと同時に銀行への公的資金注入が行われるとすれば、ネットすれば財政支出を使って既存住宅ローン借り手をはじめとする借入れ主体に補助金を出す形となる。

実体経済への支援に対して徹底的に懐疑的であったのと対照的に、本ブログは金融機関への公的支援の可能性を軽視していたわけではない。

これまでの記事でも、

「金融機関への公的資金注入は素早く、そして無原則に行われるだろう。”システミックリスクを起こしてはいけない”というところに政策の線引きがなされているためである。不良債権の規模を隠蔽したい気持ちは非常に強いものになるだろうが、隠蔽したまま相互不信によるシステミックリスクを防ぐには公的資金注入しかないのである。財政出動は期待するだけ無駄であるが、リーマン・モーメント周りの処理だけは信用してもよいだろう」