このような調節は設計図の写しであるRNAの合成量を調節するだけでは達成できません。

オーケストラの指揮者がそうであるように、不要な部分を積極的に削りつつ、完全になくさないようにする微妙な調整が必要です。

生命体においてマイクロRNAは、この指揮者に相当する役割も果たしています。

実際、あるRNAに対しするマイクロRNAが生産されたとき、そのRNAの機能が100%阻害されること稀です。

また興味深い事実として、1種類のマイクロRNAが結合できるRNAが複数(100種類以上)存在することが知られています。

さらに特定のマイクロRNAが阻害する効果も、RNAごとに微妙に違うものになっています。

そのためあるマイクロRNAが製造されると、あるタンパク質製造速度が30%OFF、また別のタンパク質では50%OFFのように、1種類のマイクロRNAを作るだけで広範なタンパク質の製造量に影響を与えることができます。

オーケストラを例にとると、指揮者がある瞬間に出した指示がバイオリンの音量を30%落し、チェロの音量を50%落とすといった複合的な役割を果たす必要があります。

さらに1つの細胞内には複数種類のマイクロRNAが存在することで、あるマイクロRNAからは10%OFFまた別のマイクロRNAからは20%OFFの指令を受け取るなど、複雑な相互作用のネットワークを作ることが可能になります。

現実のオーケストラは指揮者は1人ですが、生命活動では複数のマイクロRNA群が協調して指揮を行っていると言えるでしょう。

そしてこの複雑なネットワークの存在が、神秘的な生命活動を可能にしているのです。

これまでの研究によって膨大な種類のマイクロRNAが多様な生命に存在することが知られており、生命活動におけるマイクロRNAの重要さが次々に明らかになっています。

他にも最新の研究では、マイクロRNAが細胞の外に放出され、他の細胞の活動を調節できることもわかってきました。