ここまでの説明を聞くと、マイクロRNAは無駄をなくすための節約システムのような印象を受けるでしょう。

確かにマイクロRNAは需要のないタンパク質を作るのを防ぐのが第一の任務です。

ですが視点を生命全体にまで拡大すると、より大きな使命がみえてきます。

マイクロRNAは遺伝子活性度の制御を担う指揮者

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マイクロRNAは遺伝子活性度の調節を行う大切な役割を担っています/Credit:Canva . 川勝康弘

生命において重要なのは、必要な時に必要なタンパク質を作ることと、その裏返しとして、必要でないときに無駄なタンパク質を作らないことだと言えます。

食べ物の消化が終わったのに、胃酸を作るタンパク質を活性化させたままでは、胃粘膜が傷つき胃もたれを起こしてしまいます。

ある意味では、この調節こそが生命現象そのものと言えるでしょう。

そのため前章では細胞を工場に見立てて、マイクロRNAを使った節約術を解説してきました。

しかしここでは少し視野を大きくとり、生命全体からみたマイクロRNAを考えてみたいと思います。

そこで具体例を工場からオーケストラに変更します。

オーケストラが美しい曲を奏でるには、必要な時に必要な楽器の音色が強く、または弱く演奏される必要があります。

ある時はバイオリンの音色、またある時はチェロの音色が強くなる必要があり、主旋律の役割を交代しながら全体の調和を達成します。

そういう意味では工場もオーケストラも似てはいます。

ですがオーケストラの演奏を聞いていてもわかるように、バイオリンやチェロの音色はスイッチのように瞬間的にオン・オフになるのではありません。

タンパク質需要も同じであり、これまで必要とされていたタンパク質の需要は瞬間的に停止するわけでもありませんし、新たに必要とされたタンパク質が最初から最大需要で求められるわけでもありません。

徐々に強く、徐々に弱く、スムーズな調節が必要となります。