これに対して、検察官は、「味噌漬け実験報告書」については、新たな専門家の証言により、「味噌樽に1年以上浸かっていても赤みが残る可能性はある」と主張し、弁護人の「証拠ねつ造の主張」も全面的に否定し、「5点の衣類」についても、「捜査機関によるねつ造は不可能又は著しく困難であり、被告人が犯行時の着衣を犯行直後に味噌樽の底に隠したもの」と主張した。

再審判決における「認定無罪」の結論

再審判決は、その冒頭で、「判決の骨子」として

被告人が本件犯行の犯人であることを推認させる証拠価値のある証拠には、三つのねつ造があると認められ、これらを排除した他の証拠によって認められる本件の事実関係によっては、被告人を本件犯行の犯人であるとは認められないと判断した。

すなわち、①被告人が本件犯行を自白した本件検察官調書は、黙秘権を実質的に侵害し、虚偽自白を誘発するおそれの極めて高い状況下で、捜査機関の連携により、肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取調べによって獲得され、犯行着衣等に関する虚偽の内容も含むものであるから、実質的にねつ造されたものと認められ、刑訴法319条1項の「任意にされたものでない、疑のある自白」に当たり、②被告人の犯人性を推認させる最も中心的な証拠とされてきた5点の衣類は、1号タンクに1年以上みそ漬けされた場合にその血痕に赤みが残るとは認められず、本件事件から相当期間経過後の発見に近い時期に、本件犯行とは無関係に、捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ、1号タンク内に隠匿されたもので、証拠の関連性を欠き、③5点の衣類のうちの鉄紺色ズボンの共布とされる端切れも、捜査機関によってねつ造されたもので、証拠の関連性を欠くから、いずれも証拠とすることができず、職権で、これらを排除した結果、他の証拠によって認められる本件の事実関係には、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは、少なくとも説明が極めて困難である事実関係が含まれているとはいえず、被告人が本件犯行の犯人であるとは認められないと判断した。

ねつ造その1(検察官調書)