1966年に静岡県の味噌製造会社の専務一家4人が殺害・放火された、いわゆる「袴田事件」の再審で、9月26日、静岡地裁(國井恒志裁判長、谷田部峻裁判官、益子元暢裁判官)は、死刑が確定していた袴田巌氏に対して無罪の判決を言い渡した。死刑が確定した事件で再審が開始された事件が4件あるが、いずれも再審の一審で無罪判決が出され、検察官が控訴することなく、そのまま確定している。
袴田事件の再審無罪判決も、結論は予想どおりであり、再審請求審、再審で長年にわたって戦い続けてきた弁護団の「全面勝利」の判決で、58年ぶりに袴田氏の潔白が明らかになったのだから、一日も早くそれが「司法の最終判断」となるよう、「検察は控訴をすべきではない」、「即刻上訴権放棄をして、無罪判決を確定させるべき」という論調が大半である。
しかし、今回の再審判決の内容を仔細に検討すると、検察にとっては、「到底受け入れがたい判決」であり、また、弁護側にとっても、結論は「無罪」であるものの、袴田氏は潔白・完全冤罪であるという弁護側主張の大半を排斥した今回の再審判決は、「手放しで喜べる判決」とは言い難い。
控訴期限は10月10日であり、検察組織は、それまでに控訴・不控訴の判断を迫られる。もし、控訴を行った場合、検察は、世の中から、無実の人に58年以上も死刑囚の汚名を着せた上、面子だけにこだわって悔い改めることなく有罪主張を続けることに対して、「人でなしの組織」のような猛烈な批判に晒され、控訴審でも大逆風の中での審理を余儀なくされることになる。
しかし、もし控訴審ということになった場合、弁護側も、控訴審での対応において、極めて困難な判断を迫られることになる。
「検察批判論者」の筆者の袴田事件への論評私は、23年間検察の組織に属し、検察官としての職務経験を有する「検察OBの弁護士」である。しかし、多くの検察OB弁護士とは異なり、主として特捜部が手掛けた事件について、検察を厳しく批判し、自らも弁護人として、美濃加茂市長事件、青梅談合事件、五輪談合事件などで法廷での「検察との戦い」を繰り広げてきた。