袴田氏は、裁判では一貫して無罪を訴えたが、1980年に死刑判決が確定、翌年に第一次再審請求が申立てられ、2008年、最高裁で棄却されたが、同年に第2次再審請求が申立てられた。

この第2次再審請求審で、再審開始の要件である「無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見した」(刑訴法435条6号)として弁護人が主張したのは、袴田氏が逮捕・起訴され公判審理が行われていた最中に味噌樽の底から発見され、袴田氏が犯人であることを裏付ける有力な証拠とされた「5点の衣類」についての、

(ア) 衣類から血液細胞を他の細胞から分離して抽出する「細胞選択的抽出法」を実施した上で、採取した試料のDNA鑑定を行った結果、袴田氏のDNA型とは一致しないという本田克也筑波大学教授のDNA鑑定(本田鑑定)

と、

(イ) 5点の衣類には付着した血痕の色の赤みが残っていたとされるが、1年以上味噌に浸かっていたとは考えられないことを実験によって証明したとする「味噌漬け実験報告書」

の2つであった。

2014年3月、静岡地裁(村山浩昭裁判長)は、(ア)(イ)をいずれも「新証拠」と認め、再審開始を決定(以下、「村山決定」)、袴田氏の死刑および勾留の執行を停止し、袴田氏は釈放された。

即時抗告審の東京高裁(大島隆明裁判長)は、2018年に、(ア)の「本田鑑定」について、

《本田氏の細胞選択的抽出法の科学的原理や有用性には深刻な疑問が存在しているにもかかわらず、原決定は細胞選択的抽出法を過大評価しているほか、原決定が前提とした外来DNAの残存可能性に関する科学的原理の理解も誤っている》

《本田鑑定を信用できるとした原決定の判断は不合理なものであって是認できず、本田鑑定で検出したアリルを血液由来のものとして、袴田のアリルと矛盾するとした結果も信用できず、本田鑑定は、袴田の犯人性を認定した確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるような明白性が認められる証拠とはいえない》