無罪判決は、検察官が起訴した事件について「犯罪の証明がない」場合に言い渡されるが、その「無罪判決」には二通りある。

犯罪を行った疑いで逮捕・勾留され起訴されたが、「被告人が犯人ではないことの証明」があった場合は、犯罪の疑いが消滅するのであるから、「完全無罪」である。

もう一つは、被告人に対する犯罪の疑いがなくなったわけではないが、被告人が犯人であることの根拠とされた証拠について重大な疑問が生じたり、「拷問による自白」「違法に収集された証拠」など、刑事裁判で証拠とすることができないと判断されたりして、有罪判決に必要とされる「合理的な疑いを容れない程度までの犯罪の証明がない」と判断される場合である。

この場合、「被告人が犯人である可能性」が否定されるわけではないが、「疑わしきは被告人の利益に」の原則から、裁判所の判断によって無罪判決が言い渡される。裁判所の認定による「無罪」、言わば「認定無罪」である。

「被告人と犯行との結びつき」、つまり被告人の犯人性に関しては、「積極証拠」と「消極証拠」があり、その相関関係で、有罪無罪が決せられることになる。被告人のアリバイ成立、真犯人が別人であることなどを証明する証拠が、犯人性についての「消極証拠」であり、それが客観的に明白なものであれば、被告人が犯人ではないことが証明され、「完全無罪」となる。

一方、犯人性についての「積極証拠」の証拠価値や信用性が否定された場合、或いは疑問が生じた場合、被告人の犯人性についての証拠は弱まる。その程度如何では、「認定無罪」となるが、その判断は、被告人の犯人性について疑いが消滅するわけではない。

本件再審公判の証拠構造

再審請求審の過程で、弁護人が「無罪を言い渡すべき新規・明白な証拠」と主張し、裁判所も、それを認めたのが前記(ア)(イ)であった。

(ア)のDNA鑑定(本田鑑定)は、その証拠価値・信用性が認められれば、衣類に付着した血痕が別人のものだということになり、5点の衣類が犯行着衣ではなく捜査機関によってねつ造されたことが殆ど疑いの余地がないことになる。しかし、村山決定では証拠価値・信用性が認められたものの、大島決定は証拠価値を否定し、その判断は、最高裁決定でも、大善決定でも変わっておらず、再審公判で証拠価値が認められる可能性は低い。