として証拠価値を否定し、(イ)の「味噌漬け実験報告書」については、

《5点の衣類の各写真は、写真自体の劣化や、撮影時の露光といった問題があり、発見当時の色合いが正確に再現されていないのであるから、色合いを比較対照する資料とはなり得ないものである上、前記各みそ漬け実験で用いられたみそは、5点の衣類が発見された1号タンク内にあったみその色合いを正確に再現したものとはいえない》

などとして、再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却する決定を出した(以下、「大島決定」)。

それに対して、弁護人が特別抗告を申し立て、2020年12月に、最高裁は、(ア)については、証拠価値を否定した大島決定を支持したが、(イ)については、

《前高裁決定は、みそ漬けされた血液の色調に影響を及ぼす要因、とりわけみそによって生じる血液のメイラード反応に関する専門的知見について審理を尽くすことなく、メイラード反応の影響が小さいものと評価した誤りがあるとし、このことは5点の衣類に付着した血痕に赤みが全く残らないはずであるとは認められないとの前高裁決定の判断に影響を及ぼした可能性がある》

と指摘して、審理を東京高裁に差し戻す決定(以下、「最高裁決定」)を行った。

そして、2023年3月、東京高裁(大善文男裁判長)で、(イ)を、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と認める再審開始決定(以下、「大善決定」)が出された。

2種類の無罪

再審開始決定が確定したことにより行われる再審公判では、改めて、通常の刑事事件の一審と同様の手続で刑事裁判がやり直されることになる。再審裁判所は、再審請求審の決定に拘束されるものではなく、検察官が行う主張立証にも制限はないとされている。本件では、検察官は、改めて有罪立証を行い、袴田氏に死刑を求刑した。裁判所は、自由心証により、袴田氏について「犯罪の証明」があるのか、改めて判断することになった。