つまり、「味噌漬け実験報告書」は、その証拠としての性格上、証拠価値が科学的に裏付けられたとしても、そこには、「捜査機関による組織的な証拠ねつ造の可能性」との相関性があり、「ねつ造の可能性」の評価も、再審公判の審理と結論において、極めて重要なものと言わざるを得ないのである。また、「味噌漬け実験報告書」だけでは、袴田氏の犯人性を否定する決定的な「消極証拠」にはならないのであり、「完全無罪」のためには別の証拠が必要となる。

弁護人の「警察による証拠ねつ造の主張」

本件の弁護人は、上記のような証拠構造の下で、「袴田氏は一家4人殺害・放火事件の犯人ではなく、真犯人は別にいる」として、袴田氏の「無実」「潔白」を訴え、「完全無罪」の結論をめざしてきた。

本件の犯人像についても、「単独犯」「内部犯行」「金品取得目的」という警察の見方は、味噌製造会社内部者の犯行であるかのように見せかけるために、事件直後、早いものは事件発生の数時間後から、現場の遺留物等の証拠ねつ造等によって作り上げられたものだと主張し、現場の状況等から、「複数犯」「外部犯行」「怨恨」による犯行であると主張してきた。

再審公判でも、前記 (イ)の「味噌漬け実験報告書」の証拠価値・信用性を、新たな専門家証言等によってさらに補強することに加え、前記(ア)の本田鑑定の証拠価値・信用性を改めて主張した。犯人像についても、「本件は、検察官が主張する、住居侵入、被害者4人の強盗殺人、放火事件ではなく、犯人は一人ではなく複数の外部の者であって、動機は強盗ではなく怨恨だった。

犯人たちは、午前1時過ぎの深夜侵入したのではなく、被害者らが起きていたときから被害者宅に入り込んでいた。そして、4人を殺害して放火した後、表シャッターから逃げて行った」と主張した。

「警察は、袴田氏とは全く犯人像の異なる真犯人が別にいるのに、真犯人を捜査の対象から外し、初動捜査の段階から、証拠のねつ造を重ねて、袴田氏を犯人に仕立てあげた」として、事件発生直後からの捜査の全過程における証拠ねつ造を主張するものだった。