「1年以上味噌漬けされた場合にその血痕に赤みは残らない」ことについて、大善決定では、「当審で取り調べた各専門的知見から、1年以上みそ漬けされた5点の衣類の血痕の赤みが消失することが化学的機序として合理的に推測できる」としていたが、再審判決は、「その血痕は赤みを失って黒褐色化する」との断定的な判断を示し、それを前提に、「被告人以外の者が5点の衣類をその発見に近い時期に1号タンク内に隠匿したとすると、5点の衣類は、犯人が本件犯行時に着用していた犯行着衣でないと認められる。」「5点の衣類を犯行着衣としてねつ造した者としては、事実上、捜査機関の者以外に想定することができない」として、捜査機関によるねつ造を認定している。

検察官は「捜査機関による5点の衣類のねつ造は非現実的で実行不可能なものである」と主張したが、以下のような理由で退け、捜査機関が、被告人の有罪を決定付けるために5点の衣類のねつ造に及ぶことは、現実的に想定し得る状況にあったとしている。

① 5点の衣類が発見される前は、5点の衣類を除く当時の証拠関係では、被告人が無罪となる可能性も否定できない状況にあったが、被告人の有罪を確信して本件捜査に臨んでいた捜査機関において被告人が無罪となることが到底許容できない事態であった。

② 捜査機関は、被告人が当時居住していた本件工場の従業員寮の捜索等を実施しており、被告人の着衣を把握していた。被告人の荷物が同年9月2 7日頃に被告人の実家に送付されるまでの間に、実際の被告人の衣類を入手し、ねつ造に及んだ可能性も十分にある。

③ 本件工場の北側出入口は、従業員以外の者も出入りできる状況であったから、捜査機関において、他の従業員に気付かれずに1号タンク内に5点の衣類を隠匿することも可能であり、5点の衣類の隠匿等に本件会社の従業員の協力が不可欠であったとはいえない。従業員の利害は本件会社の経済的利益と必ずしも一致するものではないから、本件会社に経済的打撃が生じることをもって、直ちにその従業員の協力を得ることが著しく困難であったともいい難く、従業員の協力を得た上で限られた期間内に5点の衣類を隠匿する可能性も否定できない。