そのような証拠ねつ造工作を行うことのリスクは、警察にとって、重要殺人事件で検挙した被告人が無罪となることとは比較にならないほど大きい。
現実的な可能性としては、捜査機関による証拠ねつ造の可能性は極めて低いというのが常識的な見方であろう。
ねつ造その3(共布の端切れ)「三つ目のねつ造」は、「5点の衣類」の衣類が袴田氏の着衣であったことの認定に関して、袴田氏の実家の捜索で押収したとされた「共布の端切れ」も、捜査機関によるねつ造と認定し、そこに検察官も関わっていると認定したことだ。それは、以下の理由による。
⑥ 5点の衣類の一つの「黒色ようズボン 1枚」(鉄紺色ズボン)は、黒色様とはされているものの、「味噌の水分、塩分などで濡れてやや固くなり、しわまみれ」とされているのに、袴田氏の実家の捜索で「共布の端切れ」を押収した経緯について警察官は、「黒色ようズボン」そのものと「同一生地同一色と認め」たと証言しており、同一生地同一色と判断したのは不合理である。捜査機関の者による持込みなどの方法によって、本件捜索以前に被告人の実家に持ち込まれた後に押収された事実を推認させる。
⑦ 吉村検察官は、昭和42年8月31日に1号タンクから発見された5点の衣類等について、5点の衣類と被告人を結び付ける端切れが押収された9月12日、本件捜索の立会人である袴田ともから事情を聴取した同月17日より前の9月11日に、立証趣旨を「被告人が本件を犯した際着用していた着衣であること」として証拠請求し、13日には、次回の公判期日を待つことなく犯行着衣をパジャマから5点の衣類に変更した冒頭陳述の訂正まで行っている。具体的な証拠が乏しい状況で、5点の衣類が被告人の着衣と判断していたと認められ、被告人の実家から端切れが押収されることを本件捜索以前から知っていたことを推認させる。
再審判決は、吉村検察官が、「共布の端切れ」が袴田氏の実家から押収されることを、事前に知っていたと「推認」している。