その主たる理由は、吉村検察官が、5点の衣類と被告人を結び付ける「端切れ」が押収される前から、5点の衣類が犯行着衣であることを前提とする証拠請求、冒頭陳述の訂正等の公判対応を行っていることである。

確かに、「ズボンの共布」が実家から発見されれば、袴田氏の着衣であることの決定的な証拠になる。しかし、大量の血痕が付着した「5点の衣類」は、既に8月31日には味噌タンクの底から発見されているのである。それが犯行着衣である可能性が高いと考え、その時点から、それと被告人との結びつきを明らかにする補充捜査が開始されたはずであり、その結果、袴田氏の着衣と認める証拠が相当程度収集されていた可能性もある。

吉村検察官が「5点の衣類」を犯行着衣と判断して公判対応を行ったことが、それ程不合理なこととは思えないし、ましてや、それだけで、「証拠ねつ造に加担した検察官」と「推認」されるようなこととは思えない。

再審判決の「共布の端切れ」に吉村検察官が関わったかのような事実認定には疑問がある。

袴田氏の母親の供述調書と公判供述の信用性に関する検察官の主張

さらに、再審判決は、前記の「共布の端切れ」について、袴田氏の母親の袴田ともの捜査段階の供述と公判供述の関係について、公判廷では

「そういったものを私は一度も見ませんでした」

「警察官が引き出しの中にあったといって私の前へ見せました」

と端切れが本件捜索前から存在していた点につき記憶がない旨証言し、本件捜索以前から被告人の実家に端切れがあったか否かという点で公判での証言内容と食い違っていることについて、袴田ともの検察官調書に、本件捜索以前から端切れが存在していたかのような記載があることや、袴田ともが端切れの押収当日に「ズボントモキレ」と記載した任意提出書を提出していることは、自らの体験を自発的に供述したというよりも、想定外のものを警察官から発見されたと言われて混乱したまま、捜査機関から、消去法的に、寮から送り返された被告人の荷物の中に端切れがあったという状況で理詰めで供述させられたことを強く疑わせると述べた上、