ナチス・ドイツによる強制労働被害に関しては、2000年8月、ドイツ政府と約6400社のドイツ企業が「記憶・責任・未来」基金を創設し、これまでに約100カ国の166万人以上に対し約44億ユーロ(約7200億円)の賠償金を支払ってきている。このようなドイツ政府とドイツ企業の取り組みこそ、日本政府や日本企業は見習うべきである。

「基金」は、ナチス政権下で行われたドイツ企業による強制労働被害者らへの人道的見地による補償を行うため2000年に設立された。ドイツはこの他にも連邦補償法を設けてナチスによる被害者に1060億マルク(約5兆6000億円)の補償をした。

しかし、これらはあくまで「補償」であって「賠償」ではない。1953年のロンドン債務協定で平和条約締結までドイツの賠償問題を棚上げされ、その後、東欧諸国や多くの西側諸国は一方的ないし二国間の取り決めにより賠償請求権を放棄してきている。ドイツはもはや賠償問題は存在しないとの立場だ。

また、「基金」にいう「強制労働」とは一般に、本人の意思に反して脅迫、暴行、監禁などの直接的な方法での労働の強制や心理的圧迫など間接的方法をもって行われる労働などを指す。が、イ・ウンヨン氏の研究では、朝鮮半島出身労働者の多くが自発的な来日であり、かつ賃金や労働条件も日本人労働者と何らの差別がなかったとされる。

西尾幹二氏の「異なる悲劇 日本とドイツ」(文春文庫)は彼我の戦後賠償を知るに格好だ。西尾氏はドイツの犯した罪を、「生物学的人種思想」に基づいて、むしろ「戦争目的にそぐわない」にも拘らず「ある人種に属しているものはそれだけで生存の価値のないもの」として抹殺した「テロ」と断じる。

すなわち、「テロが支配の手段でなく、テロそのものを固有の本質とするような運動体としての全体主義は日本には無縁であった」というのだ。西尾氏はこれ、すなわちホロコーストを「戦争行為ではない」とする一方、「日本は普通の戦争行為をしたのだ」とし、こう続ける。