しかし、筆者はこの本が1985年に書かれたことを石破氏が軽視なさったと思う。ご自身も「30年以上も前」に書かれた本だが「それだけに本質を見極めておられる」とされる。確かに1985年の時点で考えられ得る限りの「本質を見極め」た内容だが、実はこのタイミングが最も重要なのではあるまいか。

1945年8月に光復した韓国は、反米・反日だが極めて強固な反共の李承晩が国づくりをした。その後クーデターで政権の座に就いた朴正熙も一時共産党員だったが、後に反共に転向し日韓国交正常化を果たした。そして朴暗殺後にクーデターで政権を取った全斗煥時代に「韓国の悲劇」は書かれている。

勿論、「漢江の奇跡」と世界が瞠目した経済発展は果たしつつあった。が、韓国の民主化は1988年2月に初めて直接選挙によって大統領となった盧泰愚の第六共和憲法まで待たねばならない。その後、経済格差はかなり縮まったが、もちろん執筆時点は朝日が書く前だから慰安婦問題も起こっていない。

ましてや金大中、廬武鉉そして文在寅と続く親北容共政権の出現や、一連の日韓国交正常化協定を揺るがすような事態が起こるとは、小室氏の慧眼をもってしても思いもよらぬに違いない。令和を迎えた現時点で小室直樹氏が韓国を書いたなら、その題名はきっと「韓国の喜劇」としたのではあるまいか。

次にドイツ。石破氏のおっしゃるドイツが明らかにした「ニュルンベルグ裁判とは別の戦争責任」とは、2000年8月12日に施行された「記憶・責任・未来」財団設立法に基づいてドイツ政府とドイツ企業が創設した「記憶・責任・未来」基金(以下、「基金」)のことを指しておられるのだろう。

「記憶・責任・未来」財団が入っているビル(Wikipediaより:編集部)

この「基金」については、人権派弁護士として名高い宇都宮健児氏が本年7月22日に韓国の赤旗?「ハンギョレ」に寄稿した、「徴用工問題の解決に向けて」と題した4600字ほどの、新聞に掲載するにしては長文の論文の中でもこう触れられている。