近年では他にもさまざまな手法を使ってこの光の速度低下を極限まで大きくする技術が開発されており、2000年に行われた研究では光の速度を時速1.6㎞と歩く速さよりも遅くすることに成功しました。

さらに進んだ研究では、媒体内部で光パルスを完全に停止させ、光パルスに刻んだ情報をそのままの形で媒体内部に留めることに成功しました。

光の遅延を無限に近く引き伸ばした例とも言えるでしょう。

SFなどでは「クリスタルの中に情報を光の形で閉じ込める」といった設定がよく使われますが、技術進歩によって実現可能になってきたのです。

一方、逆に光の速度を落とさずに通過させる媒体の開発も進んでいます。

例えば屈折率が1に近くなるように作られた媒体では、光の速度を真空とほぼ同じ速度に保つことが示されました。

このような媒体では光との相互作用を抑えたり、光と原子の周波数を調節するなどさまざまな手法を取り入れることで、光の吸収と放出という遅延を限りなくゼロに近づけています。

トロント大学で行われた研究では、この遅延をゼロを乗り越えてマイナスにできるかが試されました。

すると、とんでもなく奇妙な現象が起こりました。

量子の不思議を煮込む魔女の大釜「ルビジウム原子雲」

新たな研究では、ほぼ絶対零度まで冷却されたルビジウム原子の雲に対して光子が発射されました。

ルビジウム原子雲には極低温に冷却すると、原子雲全体が日常世界の常識を脱し、量子世界の常識に従うようになることが知られています。

(※この状態になったルビジウム原始雲は多数の原子によって構成されているにもかかわらず、まるで1個の巨大な原子のように振る舞い始めます:この状態をボース=アインシュタイン凝縮体と言います)

またこれまでの研究により、この極低温ルビジウム原子雲に対してレーザーを照射することで、量子的な状態をかなり正確に制御できることが示されています。

わかりやすく言えば、人間の采配で量子世界の状態をある程度調節したわけです。