ある意味でルビジウム原子雲は量子の不思議を煮込む魔女の大釜のような役割を果たしていると言えるでしょう。

そこで研究者たちは、ルビジウム原子雲の状態をさまざまに制御しながら、原子雲の中に光を通過させる実験を繰り返しました。

量子世界の不思議が詰まった魔女の大釜の火力を調節するように、ルビジウム原子雲の量子的な性質を変化させ、通過する光に量子世界の不思議が発生するのを待ったわけです。

するとある条件において、ルビジウム原子雲で光子の遅延がマイナスになる状態が確認され、光子がルビジウム原子雲に入る前に、出てきてしまっている観測結果が得られました。

研究者たちは、1つ目の例を発見すると、さらに時間をかけて別の設定も試し現象のさらなる例をみつけだしました。

研究者たちは、この状態にあるときルビジウム原子雲における光の遅延はゼロを超えてマイナスになっていると述べています。

遅延がプラスの場合、原子雲を通る光は減速し、遅延がゼロの場合は原子雲に入っても光は全く減速しません。

ですが遅延がマイナスになると、光子にある意味で負の時間が流れ、光が入るよりも先に出ていくという観測結果が得られます。

観測されたデータでは一見すると、因果律に反しているかのような部分がみられます。

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今回の不思議な現象は量子現象によるものでありタイムトラベル的なものではなく、因果律は保たれています。/Credit:Canva

しかし今回の負の時間、あるいは群遅延と呼ばれる現象は、量子現象によって引き起こされたものであり、タイムトラベル現象によって引き起こされたものではありません。

また観測した光には因果を結ぶ情報が含まれていないため、因果律も保たれています。

量子現象の中にはタイムトラベルをしたかのように振る舞うものも存在しますが、実際に因果律を脅かすような事例はごく限られており、大方の量子現象は因果律に従っています。