田中:これに対して、京大との「ウェルビーイング文化比較研究」では、国家規模のマクロな視点から社会や組織、個人のあり方を探るという、全く逆のアプローチを取っています。この対照的なリサーチプロセスから見えるものの幅が興味深いのです。
異なる文化に触れるときに意識すること
ーーーさまざまな文化やバックグラウンドをもつ国や地域に取材していますが、その際に心がけていることはありますか?
工藤:フィールドワークを行うさまざまな学術分野では、研究者が一方的に地域の人々から情報を収奪するような姿勢を自己批判してきました。
「YOKOKU Field Notes」のようなプロジェクトは、アカデミアの研究調査とは規模も性格も異なりますが、現地での活動が単なる情報収集にとどまらないような方法を模索しています。
工藤:私たちのレポートは、一般的なオンライン記事よりも厚いボリュームで、個々の活動について記述します。デザイナーが装丁し、比較的短い時間で出版され書店にも並びます。
そのことを広報的な観点で喜んでくださる取材先の方々もしばしばいらっしゃるので、企業のリサーチ部門としてのある主の軽やかさを生かした還元の仕方があるかもしれない、とは考えています。
あとは、当たり前なのですが単に紀行文を書きに行くわけではないので、その地域の文化的な文脈を踏まえたレポートにすることを心がけています。例えば韓国の公共図書館や私塾について取材を行う際には、韓国のオルタナティブスクールの片箭や受験教育史を調べた上でインタビューをし、執筆を進めました。
田中:加えて、あまり価値観や考えを固定化しないことも重要です。「Z世代はこういうタイプの人たち」など、リサーチの対象を一般化しすぎることで、誤解や偏見を生むリスクが生じます。
その都度、柔軟な視点を持ち続けることで、より正確で共感できるアウトプットが生まれると考えています。