採集だからといってただ集めて終わりではないわけで、集めた採集物を「加工」──すなわち自ら再解釈するプロセスがこの鑑賞会に埋め込まれています。

工藤:「ヨコク」する主体になるためには、今ここにないものの予測ではなく、すでにそこにあったものに自ら解釈や意味付けをする基礎力のようなものが求められるのかもしれない、とこのプロジェクトを経て感じています。

田中:これまでのコクヨは、文房具やワークスペースの環境を変えることで、その人の思考や行動が変わると考えてきました。しかし、この上映会では対象をほとんど変えずに、自分のフィルターや体内の状態を変えることで、どのように物の見方や感じ方が変わるかを探りました。

ーーーその人のフィルターや体内の状態を変えるというアプローチを取ったのには理由があるのでしょうか?

田中:私たちが中身を変えずに環境だけを変えて、幸せや生産性を追求することには限界があるからです。私たちは日常生活や仕事の中で、どうしても役に立つものばかりを探しがちです。

例えば、SNSで情報を探すときや街を歩くときも、仕事や生活に役立つものばかりを無意識に探してしまいます。情報過多な現代では、自分がなんとなく「良い」と感じるものを見つけることは案外難しいのです。

そこで、普段の生活で慣れてしまった自分のフィルターや体内の状態、つまり「体つき」のようなものを意識的に変えることで、どのような変化が起きるかを実験的に探ろうとしたのが今回の取り組みでした。

ーーーヨコク研究所の取り組みはどれも視点が面白いと感じました。企画をするときの心構えはありますか?

田中:研究メンバーにはさまざまなバックグラウンドがあります。海外リサーチを担当している金森は、ワークプレイスに関する研究を行うために海外の大学院に通っていた経験もあり、職場やオフィスの環境に専門性を持っています。