所長の山下は、もともと建築のバックグラウンドがあるため、空間設計に強みがあります。加えて広い視野で社会的なイシューを突き合わせ、メディアを編集することができます。このように、それぞれの得意分野をミックスしながら、プロジェクトを進めているので自分だけでは考えつかないような、斬新な考え方も飛び出してくるのです。

みこしを担ぐと組織が見える?

ーーーさまざまな活動をする中で、特に印象的なプロジェクトやエピソードはありますか?

工藤:「自律協働のエクササイズ」という、作家を招いたプロトタイピングシリーズのなかに「蛸(たこ)みこし」というものがあります。

これは芸術探検家の野口竜平さんがタコの形を模して作ったみこしで、8本の足を8人で持って担ぎます。伝統的なみこしは、ソリッドな駆体に装飾が施され、象徴的な存在ですが、「蛸みこし」はその対極にあり、ふにゃふにゃ竹の骨組みだけでできた柔らかくて頼りない存在です。

みこしを担ぐときの力の入れ方には、ある種のブラックボックスのような匿名性がありますよね。大きな母体の中ではちょっと力を抜くようなサボりすら包摂されます。

しかし、「蛸みこし」では誰かがバランスを崩すとすぐにわかるので、助けてあげられます。互いにオープンでアジャイル(「素早い」「機敏な」)に動きやすい一方で、相互監視のようなプレッシャーがあるのです。こうしたみこしのメタファーは、「組織」の構造について考える際の興味深い手がかりでした。

田中:私が面白く感じられるのは、リサーチする範囲によって見えてくるものが大きく異なることです。

例えば、前編で紹介した「YOKOKU Field Notes」というフィールドリサーチプロジェクトの初回では、鹿児島の離島である甑島のリソースを生かして活動している人々に密着しました。生業と密接に関わった彼らの取り組みからは、個々の経験的な思考が見えてきます。