ガス化したままで使う方がエネルギー的には有利だが、航空機に積むには液体燃料が望ましい。その液体燃料を合成するためにFT法と言うプロセスを用いるが、合成反応自体が吸熱反応なので、その段階でまたエネルギーを使う(多くの場合、熱源は石炭)。そのため、得られた液体燃料のエネルギーまたはCO2収支が不利になってしまう。

この種の液体燃料は、1980年代の石油危機以降かなり熱心に研究されたが、現在でも実用化された例はほとんどないと言う現実がある。どうしても高くつくから。

B)の最後の5)は文字通り今流行のe-Fuelであるが、これは要するに水素を原料としてCO2を還元して炭化水素を作る試みであり、水素が安く大量に入手出来なければ実現できない。これもまた、メタン(CH4)などの気体燃料合成ならまだしも、FT合成で液体燃料製造となると投入エネルギーも大きくなるしコストも上がる。いずれにせよ、水素の入手可能性で大半が決まる。

と言うわけで、SAFとして頼りになるのはA)バイオ燃料系が主体となるのだが、バイオ燃料にも問題は多い。大きく分けて、次の問題がある。

エネルギー・CO2収支の問題:バイオ燃料は「カーボンニュートラル」なのか? 供給可能量の問題:かつての化石燃料のように供給できるのか?しかも持続可能な形で。 経済性の問題:熱量当りの価格で化石燃料に対抗できるのか? 食料その他の用途との競合:コーン、サトウキビなどは無論競合する。その他のバイオ燃料も食用作物と栽培用地を取り合うので、間接的には食料生産と競合する場合が多い。 生態系保全の問題:真に「持続可能」であるためには、生態系を維持したまま生産できなければならないが、それは可能なのか?あるいは、持続可能な生産力とは?

これらはバイオ燃料をめぐる本質的な問題であるが、マスコミ等では一面的な解説しか行われていない場合が目立つ。

例えば「バイオ燃料は「カーボンニュートラル」であるから、CO2排出削減に役立つ」という誤解。確かに、バイオ燃料中の炭素が大気中CO2から光合成で固定された炭素であることは事実で、その限りでは「カーボンニュートラル」なのだが、実際にはバイオ燃料の製造段階で栽培・輸送・加工などのために種々のエネルギーが外から投入されるので、全体として見ると決して「カーボンニュートラル」ではなくなってしまう。これは過去の数多くの研究で明らかにされている。