例えばバイオエタノールの場合、ブラジルのサトウキビ原料でエタノールの蒸留用燃料にバガス(サトウキビの茎部分)を使えば、エネルギー収支は正(エタノールの発熱量>投入エネルギー)になるが、その他の場合は大抵負になる。エタノールは発酵後の濃度が20%程度しかなく、飲むにはこれでも良いが、燃料に使うにはこれを98%にまで濃縮するための蒸留用エネルギーが必要になるからだ。トウモロコシなどのデンプン材料や紙・木材などの原料では糖化工程も必要で、ここにもエネルギーがかかる。

エタノール以外の燃料作物では、収量が少ないのと栽培で消費するエネルギーが大きいため、多くの場合収支は負になる。つまり多くの場合、バイオ燃料はCO2排出削減どころか、排出増加の可能性が高いのである。

それでも推進された理由は唯一、液体燃料が得られる、と言うのがバイオ燃料生産の口実だった(つまり石油代替燃料として)。

ついでに言うと、サトウキビやトウモロコシ原料のバイオエタノール生産は本来、エネルギー供給が主目的ではなく、これら作物の価格調整が主目的(供給過剰による価格暴落を防ぐため)、つまり農業政策だったのだ。日本のバイオ燃料政策は、この点を完全に見落としたまま、あくまでもエネルギー政策として進められた。

量的な問題としては、以前にも書いたが、日本の油脂及び油脂製品の流れを見ると、事業系・家庭系合わせて生産は年間42〜46万トン、使用後は多くが飼料用に回され、BDF(バイオディーゼル)向けは10%程度、平成22年で2万KLとなっている(なぜか、平成22年=2010年以降の統計数字が見つからない・・)。

かつ、廃食用油からディーゼル燃料を作る際には、約半分に減量してしまう(約半分がグリセリンとなり、大半は廃棄される)点にも問題がある。廃食用油はむしろ、夾雑物だけ除去して、重油代替で使う方がまだマシに思える。

一方、日本の燃料油需要実績は、2019年度で約1億6千万KL(電力用C重油を除く)となっており、ジェット燃料油だけで515万KLに上る。BDF2万KLでは0.4%にも満たない(かつ、BDFの用途の大半は農業トラクター用などで、ジェット燃料などにはほとんど使われない:品質上も種々の問題を抱えているからだ)。しかも、ジェット燃料が日本の運輸部門のエネルギー消費に占める割合は、19年度で5.1%に過ぎない。