もっとも、市場の反応にはラグ・・があった。翌日の株価は小幅に反応しただけだった。翌々日の金曜日にはかなりの下げになった。総裁発言のあいまいさがそぎ落とされ、市場の解釈があらわになっていく。土曜日と、日曜日、この2日間にそれが進んでいく。いつもなら、このような時間の空白は市場が冷静さを取り戻す時間になるのだが、今回はそうはいかなかった。

8月5日以降

この暴落には、市場関係者だけでなく、当の日銀も、財務省も驚いたに違いない。今年には、“貯蓄から投資”のキャンペーンを実施し、新NISAを展開している。6月の『骨太方針』でも同様だ。国民のお金を何兆円も株式市場に誘導したのだから、このままでは、だました、の批判が起きかねない。

「8月6日には財務省、金融庁、日本銀行の三者が幹部級の情報交換会を開いて対応を協議した」

日経ビジネス、2024年8月16日号

日銀には相当な圧力がかかったのだろう。これまで、何か良くないことがあると、政府は日銀の責任にしてきた。バブルの発生も、その崩壊の時もそうだ。日銀に責任を取らせる。総裁が国会に呼び出されるのは9年ぶりだ。何とかしなければ、過去の悪夢が、つまり日銀の独立性が危険になると心配したのかもしれない。

日銀の対応は前例のない、驚くべきものだった。暴落から2日後、副総裁が総裁発言を否定・・した。しかも、本店ではなく、函館で。

日銀の政策の広報のために副総裁,場合によっては理事が、手分けして全国を巡回するのは日銀の伝統的なやり方でもある。ここでは、聴衆へのサービスで、ご当地の経済情勢などへの日銀の分析を紹介する。この日の配布資料を見ると、北海道の経済の現況という項目がある。そこに、否定発言は記載されていなかったから、ここは急遽、付け加えられたのである。

「当面、現在の水準で金融緩和をしっかり続ける。」 シナリオは事前にリークされた模様で、函館には普段よりも多くの記者が集まっていた。 「市場は内田氏の発言を、植田氏の発言の修正ととらえた」