これがきっかけになって、およそ百年後にドイツ30年戦争が勃発。戦争には金がかかるわけで、偽金貨を大量に製造できれば、動乱のなかでのし上がることができる。カリオストロ公国は、こうした時代のなかで生まれ、近世ヨーロッパにおける影の中央銀行として機能していたようだ。

1928年のアメリカ大恐慌の引き金にもなった、と劇中では語られる。おそらく偽の株券をこの国が大量に発行していたのだろう。第二次大戦のときには偽札をすでに大量生産していたことは、当時のイギリス軍用機(撃墜されたもの)を検分するドイツ兵たちが、機体から大量の札束(ドイツのライヒスマルク札だろうか)があふれている様に呆れているワンカットからうかがえる。

史実でもこれと同じことがあった。もっともイギリスのポンド札についてだったが。かの国の経済を攪乱させるべく、ドイツで「ベルンハルト作戦」の名の下、極めて精度の高いイギリス・ポンド偽札が大量に生産され、ポンド札全流通量のおよそ一割が偽札という事態となった。終戦後のイギリスでは、5ポンド以上の札は真偽を問わずすべて中央銀行が処分を余儀なくされた。つまりは(戦後世界において)ポンドを世界の基軸通貨の座から追い落とすには十分な効果があった。

もし同作戦で、アメリカ・ドル札の贋造と大量生産に成功していたら、どうなっていたのだろう?

「カリ城」には、パリの国際警察本部(なんとなく国連総会風)で各国代表が「大量のドルが某国によって発注された形跡がある」「なんだとこの偽ルーブルこそCIAの発注じゃないのかね」と喧々囂々と言い争うシーンがある。

ヒトラーが夢見て果たせなかった、ドル札の贋造に、あの公国は密かに成功していて、以後西側、東側(映画公開当時の1979年、世界はロシアとアメリカの東西二大陣営に長く引き裂かれていた)の両方より、相手側の経済攪乱のための偽札の大量生産を請け負っていたのだろう、第二次大戦後の世界で、ずっと。

ドルの王座を揺るがしたもの