さらにAIを用いた高頻度取引の導入により、現在の株式市場は同じ銘柄の株が100μ秒(1000分の1秒)の間に何十回も取引が行われるようになっています。
その結果、十分に思えていた光速の壁が、間近に迫ってくることになりました。
例えばニューヨーク証券取引所(NYSE)のデータを扱うコンピューターとナスダック(NASDAQ)をのデータを扱うコンピューターの距離は56.3kmであることが知られており、光はこの距離をおよそ187.8μ秒かけて到達します。
この時間は人間の感覚では十分速く一瞬のように思えます。
しかし100μ秒の間に何十回も行われる取引の世界からみて、187.8μ秒の遅延は重くのしかかってくるのです。
何千キロも離れた取引所であれば、データが共有されるまでに数千回の取引が挟まってしまうことになります。
研究では、距離による不利益を打ち消すためには、計算上、コンピューター同士の距離を30cm未満にしなければならないことが示されました。
数十万光年隔てた宇宙船間の通信に比べるとスケールが小さいように思えますが、これも立派な「光速の壁」と言えるでしょう。
ですが裏を返せば、取引所のデータ同期能力に盲点があり、そこに宝の山が積み上げられていることを示しています。
もし他のシステムよりも早く取引ができれば、後出しじゃんけんの要領で、苦労なくして富を積み重ねることが可能になるからです。
しかし光速の壁の問題により、どの取引システムも横並び状態になっているのが現状と言えます。
データの伝達経路を工夫したりエネルギー効率を改善したりなどの対策で有利になることもできなくもありませんが、他のシステムも同じことをしてくれば、結局また横並びになるだけです。