しかし一方の粒子に使った観測手法が確定すると、その結果はもう一方の粒子にも見えないもつれ関係の糸を伝って瞬時に伝達され、相手の性質も観測方法に従ったものに変化してしまうのです。

こうすれば得られる結果はランダムになっても、得られる測定結果の性質(つまりどのような情報が得られるか)が異なることになります。

そして特定の粒子の状態に「買い」や「売り」を事前に割り当てることで、取引を実行可能になります。

前もってのもつれ状態の粒子の分配と、複数種類の観測方法、そして観測結果の解釈に対する事前の取り決めをしておくことで、結果として疑似的な超光速通信として機能するわけです。

また今回の研究では、もつれ状態の粒子の分配の成功率や、システムの中でもつれ状態が維持される効率なども計算されました。

結果として、新たな方法は従来の光速に制限された情報伝達方法に比べ、明白なアドバンテージを得られることが明らかになりました。

量子もつれの生成やその検証技術は1970代から存在しているため、現在は量子力学を扱うどの研究室にも存在しています。

そのため「量子テレパシー」と名付けたこの仕組は比較的簡単であると考えられます。

研究者たちは、オンラインゲームなど僅かな遅延が致命的になる分野においても、量子テレパシーは普及していくだろうともベています。

もしかしたら将来の株取引は「超光速」がスタンダードになり、量子もつれを供給するインフラシステムがネット回線と並行するように整備されているのかもしれませんね。

全ての画像を見る

元論文

Coordinating Decisions via Quantum Telepathy
https://doi.org/10.48550/arXiv.2407.21723

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。