これら水素の同位体は、原子核内の中性子の数が異ります。水素の原子核は陽子1つだけで、重水素の原子核は陽子1つと中性子1つで構成されています。
金星大気では、水素に対する重水素の割合が地球大気における割合と比べて100倍以上も大きいのです。重水素と比べて軽い水素が特に高い割合で宇宙空間へ逃げて行った結果であると考えると、つじつまが合います。
太陽が現在よりも若くて暗かった頃ならば、金星がそれほど高温ではないので、地球のような海が存在できたかもしれません。実際、太陽系が誕生して間もない頃、太陽の放射エネルギーは現在の70%程度しかなかったと考えられています。
金星表面に液体の海があったとして、それはいつ頃まで存在していたのでしょうか?
これには幾つかの説が存在しています。
まず、30億年前には蒸発してしまっていたという説があります。
海があったといっても、水の量が少なかったためすぐに蒸発してしまったということです。当時の海の平均水深は300mで、地球の平均水深が3800mであるのと比べるとかなり浅かったのです。
一方、今から7億年前という比較的最近まで存在していたという説もあります。20~30億年間という長期にわたって安定的に海が存在していたということです。
なぜ、大量にあった水が金星から失われたのでしょうか? それは、金星では暴走温室効果によって水が蒸発してしまったからです。
温室効果とは二酸化炭素や水蒸気などにより地表から放出される熱を大気中に保存する働きのことです。温室効果を持つガスのことを温室効果ガスといいます。温室効果のメカニズムは、地表から放射された赤外線が温室効果ガスを含む大気によって吸収されることで大気の温度が上がるというものです。
現在の地球では二酸化炭素などの温室効果ガスによる地球温暖化が環境問題になっていますが、過去の金星では温室効果に歯止めが効かなくなった結果、大量の水が失われたのです。