金星の自転周期は243日で秒速に換算すると秒速1.6mです。そのため金星上空では自転の60倍もの速さで大気が回転していることになり、この現象は「スーパーローテーション」と呼ばれています

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Credit:Planet-C Project Team

普通に考えると、惑星の固体部分の自転とかけ離れた大気の高速回転の持続は困難です。そのような高速回転が一時的に発生しても地表との摩擦によって、大気の速度は減速していき、結局は固体部分の自転と同程度になるはずだからです。

また、金星の自転は非常に遅いので、太陽に面した昼側の面と太陽と反対の夜側の面では温度差が大きいと考えられます。この状態では昼側で上昇気流が生まれて夜側に向かい、夜側で下降気流となってまた昼側に向かうという循環になると予想されます。

実際に、金星の高度100kmの「熱圏」と呼ばれる層ではこのような対流が生じていると考えられています。なぜ雲の層や下層大気でも夜昼間の対流が支配的にならないのでしょうか?

このように、金星のスーパーローテーションは力学的にも気象学的にも不思議な現象と考えられてきました。この現象を説明するための多くのメカニズムが提案されていますが、まだ完全な解明には至っていません。

この現象を説明する有力な説の1つが、「熱潮汐波メカニズム」です。大気は昼間熱せられて膨張し、夜冷却されることで収縮します。これが繰り返されることで大気中に波が発生します。この波が「熱潮汐波」です。雲の層で太陽光が吸収されて熱をもつとそこから熱潮汐波が上下方向に伝わっていきます。

熱潮汐波は太陽による加熱が原因の波なので、波の発生源は太陽方向つまり自転と逆方向に動いていきます。

その反動で自転の向きの運動量が増加するのです。上空に向かった熱潮汐波は散逸し、下方に向かった熱潮汐波は地表に吸収されます。それらを差し引いた自転方向の運動量のみが残ります。そのために雲の層は自転の速度以上のスピードで動くようになります。